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第134話 剣の過去2

last update Last Updated: 2025-06-20 19:01:26

 それからも青年は――神殺しの王は貪欲に働き続けた。

 国の国土を最大まで伸ばす。

 戦争で虐殺を少し手加減して大量の奴隷を手に入れた。

 奴隷でない人々も、恐怖と圧政で支配した。

 土地の守護神の血を啜った剣は、生ける武器として最高峰の強さを手に入れた。

 切れ味や使い手の能力を引き出す力だけでなく、守護神の知識をも入手した。

 剣は守護神の名にちなんで『ヨミの剣』と名付けられた。

「ヨミよ。俺はまだまだ足りないんだ。国を建て、神の力を手にいれた。それでも心は飢えるばかり」

『我が主。どうすればお前の心は満たされる? かつてオレの飢えを満たしてくれたように、オレもお前に与えたいんだ』

「この大陸全土の支配、いいや、この世界全てを支配したい。それには寿命が足らぬ。俺はもう人生の折り返しを過ぎた」

 青年は既に壮年の年頃になっている。

「永遠の命が欲しい。永遠にこの世を支配したい。全ては俺のもの、奪いたいだけ奪ってやる」

『……分かった。守護神の知識から糸口を探してみよう』

 そうしてヨミは魔法使いたちを集めて、のぞみの部屋を設計した。

 守護神の知識にあったエーテルライトと永久氷河の勾玉。そしてヨミの剣自身。

 それらを鍵として魔力の部屋を作り上げた。

 計算上は完璧だったが、エーテルライトと永久氷河の勾玉の入手はできなかった。

 まだ完成していない部屋の扉の前に立ち、王が問いかける。

「この部屋に三つの秘宝を集めれば、我が願いが叶うのだな」

『そうだ。そうすればお前の心は安らぐだろうか。オレはお前に与えられるだろうか』

「そう、だな……」

 王は部屋の扉に触れる。

 扉に刻まれた封印と増幅の文様に魔力が流れる。

 文様が強く発光して視界を覆う。

『安心しろ。お前の願いが叶うまで、パルティアの国とお前の子孫は、オレが守ってやる。だからお前は待っていてくれ』

 ヨミの声が響いた。

 光はますます強くなり、俺を絡め取ろうとする。
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